泡が消えるまで

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 七回忌の後も、私は妻と旅した地をひとりで巡っていた。
 地ビールで有名なその町、片隅に建つ小さな店に覚えがあった。私が飲みたそうにしていたのに、妻に「運転手はダメ!」と固く止められて、仕方なく素通りした所だ。
 店内、橙色の明かりの下、店主が問う。
「ラベル作りですか?」
 私は黙ってうなずく。噂通りだ。そこの店で、一枚だけ自分でラベルを作り、それを貼ったビールをその場で飲めるのだ。
 用意してきた妻の写真を、私は丁寧にラベルに貼った。店主はそっとラベルを瓶に貼り付け、すぐに栓を開けた。用意されたグラスに、とぷとぷと静かな音が響く。
「信二さん、車で来てないよね? 電車? ホント?」
 妻の姿が目の前に浮かぶ、そして弾むような声も。相変わらず怒ったり笑ったり忙しい。
 泡が全て消えるまで、束の間の妻とのひとときだった。
 しばらくして私はグラスを傾ける。苦みの後に微かな哀しみが残った。
その他
公開:23/11/18 21:25

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