蔵人ファンディング

クラウドで見付けた、新進のビール職人に出資を決めた。
元は宮大工で醸造のノウハウは無い。寺社の修繕で集めた廃材や古木を使い、工房から建てたいと語っていた。
ＳＤＧｓの時流に合うし、ありきたりなブルワーより面白そうだ。数百年の社や伽藍が醸すビール。どんな味なのか、純粋に飲んでみたいと思った。

似た様な物好きは案外多いと見え、職人は出資目標を早々に達成、立派なビール蔵を建て、木造りの樽や醸造道具を次々作った。
工房のメイキングは動画公開され、その確かな腕でファンを増やした。出資と合わせて助勢や弟子入り志願も現れた。メディアの取材を受け、小説や映画の題材になり、国内外から注目を浴びて、工房クラフトは一大プロジェクトに発展した。

――数年後。
工房はクラウド型宗教法人と化し、教祖に収まった大工は現代のイエスと謳われた。
結局ビールは醸造されないまま、空の樽がクラフト神殿の高御座に祀られている。