精霊

　クラフトビールには、精霊がいるらしい。市販のビールは喉越しで味わうものが多いよね。もちろん、それも悪くない。ただ、クラフトビールは、唇に触れた瞬間からその魅力が広がる。
　そう、精霊とキスするってわけさ。
　個性豊かなクラフトビール。君が好きな精霊──キスの相性がいいビールを選べばいい。

　隣で頬を赤らめる後輩。まさか君から飲みに誘ってくれるなんて。
「うんちくを言ってる先輩もステキですね」
　うんちくかぁ～。まぁ、そう捉えられても仕方ない、か。

　メニューには個性豊かなビールがズラリと並ぶ。う～ん、悩む素振りをしていた君が、ねぇ先輩、と呼びかけ背伸びする。視線を落とすと、そこには瞳を閉じた君が待っていた。その唇が真っしぐらに迫ってくる。「えっ!?」気づけば唇が重なり合っていた。
「先輩のことが好き」
　甘くて強気な精霊の口づけ。少し強引な味わいだったけど、意外と僕好みかもしれない。