盃 探偵シリーズ①

0
1

愛媛県のとある温泉に勤めている者によれば、深夜2時を過ぎると、女性の呻き声が聞こえてくるという。その話を聞いた私は、謎を解決するために東京からやってきた。

主人が言うにはこうだ。

「毎日同じことを言ってくるんです。くれーくれーと低い声で言ってくるんです」

そこで、夜中に噂の声が聞こえるという温泉へ留まり、耳を澄ましてみることにした。だが、2時を過ぎても何も聞こえてこない。

すると、温泉への入口に飾られていた赤い提灯が、少しずつ紙切れとなってほろほろと落ちてくる。次第にそれは舞い上がって、こちらへと近づいてくる。

その群れと成した紙切れは、私を通り過ぎて小さな鳥居へと吸い込まれていった。そこには苔の生えた地蔵と、空の盃が置かれていた。

「ご主人、地蔵の手入れはされてます?」

「いえ、もう1年近くしておりません」

盃に酒を注ぐと、それからその声はピタッと止んだという。
ミステリー・推理
公開:23/11/19 09:19
更新:24/04/09 22:15

かずま( 関東地域 )

2023/10/19に参戦した新参者です。忌憚のないコメントお待ちしております。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容