家族のクラし

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嫁ぐために家を離れる朝、台所の母がクラ樽の前に私を招いた。
「いよいよクラ分けね。向こうでも美味くやりなさい」
我が家の味と歴史の詰まった家酵母。醸し慣れた樽を出て、これから新しいクラしを仕込んでいく。
「最後にもう一杯付き合って」
「三々九度まで取っておいたら?」
優しくたしなめながら、母はクラ分けの手を止め、2つのグラスにハウスビールを注いだ。
向い合わせでグラスを傾け、舌と喉で思い出を辿る。苦くて甘くて時々辛い、いつもの味だけど、今朝は少ししょっぱい気もする。
「……だめね。酔っ払うと涙もろくなって」
「最初はしっくり来なくても、醸し続ければ味になる。ちゃんと覚えてるわ。安心して」
目尻を拭う母に微笑み、おしまいの一滴まで干してグラスを置いた。
窓から差し込む朝日が、食卓に金の道を描いている。
ここが私のクラ史の始まり。決意を新たに小さな樽を抱き締める。
今日も醸造日和になりそうだ。
その他
公開:23/11/17 16:14
クラフトビールコンテスト

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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