月に手を伸ばす

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『久しぶり、君は変わらないね』

久しぶりに会えた嬉しさに、舞い上がっていた。
貴女にばれてしまわぬよう落ち着いて振舞う。
昔、飲み歩いた懐かしい街。一軒一軒まわるごとに酔いもまわる、緊張もほぐれた。
貴女は僕の手を引いて楽しそうに早足で歩く。そんな貴女を見ていたら気持ちが抑えられなくなった。

『大事にしたい人がいるんだ』

ビールが運ばれて来る、僕は思いの丈を伝えた。
貴女はあまり嬉しくなさそうだった。
とても情けなくなり、味のわからなくなったビールをぐっと飲み干す。

『そろそろ帰ろうか』

クラフトビールの酸味が僕の口に残っていた。改札前で貴女を見送る、小柄な貴女が小さくなっていくのをただただ見ていた。

『君ならきっとその人の事大事にできるよ』

突然振り返った貴女が言った。
その言葉が僕の背中を押す、僕の足が貴女に向かう。今度は貴女にちゃんと伝わるように強く抱きしめた。
公開:23/11/16 21:05

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