近くて遠い

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『久しぶり、君は変わらないね』

嘘、数年ぶりに会った君は随分と大人びた。
私の左側にさっと寄り添い、敬語とタメ口の混ざった話し方で話す君はどこか余裕そうで面食らう。
昔、二人でよく行った店をまわる。
一軒ごとに酔いもまわり、緊張がほぐれた。

『次あそこ行こう、君が教えてくれたお店。あそこでクラフトビールを飲んで初めてビールが好きになったんだよ』

楽しくなって君の右手を引っ張りながら早足で歩く。なんだか昔に戻ったみたいで嬉しかった。

お店に入って前に飲んだクラフトビールを頼む、彼も同じものを頼んだ。

『大事にしたい人がいるんだ』

ビールが運ばれてくるまでの間彼は、そんな話しをした。
運ばれて来たビールは、前に飲んだときより苦かった。喉に詰まってしまって上手く飲み込めない。
彼の大事な人の話を聞いていた。

『そろそろ帰ろうか』

変わらないと思っていたのは私だけだった。
公開:23/11/16 20:09

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