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ささいな事から夫と喧嘩し、夫婦茶碗を割ってしまった。
嫁いだ年に二人で買い、苦労も涙も共に呑んできた。築くのは何十年かかるのに、ひびが入るのは一瞬ね。戦友のなきがらを無造作に新聞に包み、出て行く夫を無表情に見送った。
黄昏時に戻った夫は、大きな風呂敷包みを抱えていた。
「知り合いの工房で継いでもらった」
口をひがめた夫が包みを開く。茶碗のひびは綺麗な模様になって、古びた二客を輝かせていた。
「……なんて、まぁ。お化粧したみたい」
夫は黒の、私は金の。二色の模様で飾られた茶碗は、苦い様な甘酸っぱい様な、不思議と美味しそうな匂いがする。
「麦酒漆という、ビールを混ぜた漆があって。焼き物の修復に使うんだと。予約の品もあったから、その……ついでにな」
風呂敷の底から出てきた、名入れのビールについ笑ってしまった。
茶碗に注がれたビールを、結婚式の様に並んで飲む。
結婚五十年、金婚式の晩酌だった。
嫁いだ年に二人で買い、苦労も涙も共に呑んできた。築くのは何十年かかるのに、ひびが入るのは一瞬ね。戦友のなきがらを無造作に新聞に包み、出て行く夫を無表情に見送った。
黄昏時に戻った夫は、大きな風呂敷包みを抱えていた。
「知り合いの工房で継いでもらった」
口をひがめた夫が包みを開く。茶碗のひびは綺麗な模様になって、古びた二客を輝かせていた。
「……なんて、まぁ。お化粧したみたい」
夫は黒の、私は金の。二色の模様で飾られた茶碗は、苦い様な甘酸っぱい様な、不思議と美味しそうな匂いがする。
「麦酒漆という、ビールを混ぜた漆があって。焼き物の修復に使うんだと。予約の品もあったから、その……ついでにな」
風呂敷の底から出てきた、名入れのビールについ笑ってしまった。
茶碗に注がれたビールを、結婚式の様に並んで飲む。
結婚五十年、金婚式の晩酌だった。
その他
公開:23/11/18 10:29
クラフトビール
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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