デッキブラシの男

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 シャワーを浴びている足の裏に無数のヤスデを踏んづけたような感じがしてゾクッとした。見ると毛が生えていた。気にはなったが疲れていたのですぐに寝た。翌朝、ベッドから降りたらコケた。毛だ。と思い見てみると、足の裏がデッキブラシみたいになっていた。デッキブラシの上に乗ったことがあるだろうか? 垂直荷重なら立っていられるが、わずかでも傾くと途端にクシャっと毛が折れて、たちどころに足元をすくわれる。すり足もダメ。姿勢をまっすぐにして膝から垂直に上げ、上げた足を慎重に前方にバランスをとりつつ移動させて垂直に下す。そう、アシモみたいに。食卓まで20分かかった。
 切ればいい? だが足の裏の全面の毛を均等に平板に切りそろえるのはかなり難しい。少しでも凹凸があれば、立てなくなってしまう。おまけに毛には繊細な触覚があり、一本一本に痛覚も備わっている。
 その後いろいろあって、今は動物園で象や犀を洗っている。
その他
公開:23/11/18 09:11
更新:23/11/18 09:11
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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