変心変味(へんしんへんみ)

6
4

 クラフトビールバー「変心変味」では、マスターがため息をつく客、真由の愚痴を聞いていた。
「残業多いし、フラれるし、やんなっちゃう」
「このグラスを持って下さい。その人の気分で味が変わるビールですよ」
 マスターの勧めに、彼女は黄色い液体の入ったグラスに手を添えた。中身を口にして顔をしかめた。
「苦い」「もう一口飲んでみて」
 ぐいと飲むと、真由は笑顔になった。
「苦いけどコクがあるわ」
「その人の感情をいい方向へ昇華するんですよ」
 近くに座っていた会社社長の三谷は、自分の持っていたグラスを彼女の方へ滑らせた。
「僕のはきっと甘いよ」
 受け取った彼女は眉をひそめた。しばらくそのグラスを握り、三谷へ返すと店を出て行った。
 三谷はそれを飲んで苦笑いを浮かべた。
「失敗しちゃいましたね」
 マスターの言葉に、彼は残りのビールを飲み干して言った。
「いや、酸っぱいけど、これはこれで良いんだ」
恋愛
公開:23/11/18 02:30
クラフトビール ショートショート コンテスト

吉村うにうに( 埼玉県 )

はじめまして。田丸先生の講座をきっかけに小説を書き始めました。最近は、やや長めの小説を書くことが多かったのですが、『渋谷ショートショート大賞』をきっかけにこちらに登録させていただきました。
飼い猫はノルウェージャンフォレストキャットです。
宜しくお願い致します

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容