ピュアな男と一人の女

「あら、久しぶり。良い男になったわね」
　同窓会帰りに訪ねてきた彼の姿に私の心が無邪気にはしゃぐ。すっかり大人になった彼は幼い頃の面影を残しつつ、精悍な青年へと成長している。
「……僕、まだ本気です。ずっとあなたの事が、」
「ダメよ。あの日もお断りしたでしょう。アナタとは生きる世界が違うの。アタシの事は忘れて――」
「花子さん！」
　三番目の女子トイレの個室、ひんやりとした空気に慣れた私の体が逞しい温もりに包まれる。
「僕が大人になったら、お嫁さんになる約束でしょう？　この気持ちだけは、水に流せないんです」
「……バカな男」
「ええ、そうです。トイレに住まう可憐なオバケに初恋を捧げた、俺はバカな男です」
　そんなバカを、どうか愛してくれませんか。
　そう囁く彼の温もりに顔を埋めて頷く私は、自分の立場も全て忘れ、一人のバカな女となった。