Beer Salon

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 飲んだビールと同じ色に髪が染まるビアサロン。試飲で色んなカラーを気軽に試せる点が売りだ。
 私は生来の黒髪を染めて、内気な性格を見た目から変えたくて来た。でも、試飲せず黒ビールを希望した。鏡越しに美容師の困惑した顔が見える。
「金髪にしてみない?」
 彼はショットグラスを持っていた。金塊を溶かしたように煌めくビールが波打っている。
「私なんかには似合いませんよ」
 金、赤、茶が似合う女の子が集う空間に怖気づいていた。
「一口飲んでみて」
 粘る美容師が私の鼻先にショットグラスを差し出す。山頂での深呼吸を想起する清涼な香りに喉がごくりと呼応する。気づけば飲み干していた。
「前を見て」
 口元の泡を拭って美容師に従う。前髪だけ金に染まった私がいた。周りの子と同じように明るい印象を受ける。鏡なのに別人を写しているみたい。
「ジョッキで貰えますか」
 前髪に引けを取らない輝かしい笑顔でねだった。
その他
公開:23/11/14 18:53
更新:23/11/14 18:59

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