ワタナベ工房〜笑う王冠〜
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サイトもなければSNSアカウントもなく、地図アプリに掲載もない店に
どう辿り着いたのか、いつ、誰からここの話を聞いたのか、店のドアを開けた瞬間に思い出せなくなった。
「この手紙をクラフトビールにしていただきたいんです」
「お手紙、全部を、ですか?」
「……もう、忘れたいんです」
「お店のことは、ご存じのようですね」
座って少しお待ちください、店主は声をかけ、カウンター裏に行ったかと思うとすぐに戻ってきて慣れた手つきで作業を始めた。
「缶と瓶どちらにされますか?それとも、ここで飲んで帰られますか?」
「本当に、忘れられますか?」
「それを望んでいらっしゃるんでしょう?」
店主の声は小さく柔らかく、安心させるようにも、責めているようにも聞こえた。
「飲んで、いや缶……ごめんなさい、瓶でお願いします」
笑って王冠を被った瓶を差し出される。
きっと、飲めはしないことを見透かされている気分がした。
どう辿り着いたのか、いつ、誰からここの話を聞いたのか、店のドアを開けた瞬間に思い出せなくなった。
「この手紙をクラフトビールにしていただきたいんです」
「お手紙、全部を、ですか?」
「……もう、忘れたいんです」
「お店のことは、ご存じのようですね」
座って少しお待ちください、店主は声をかけ、カウンター裏に行ったかと思うとすぐに戻ってきて慣れた手つきで作業を始めた。
「缶と瓶どちらにされますか?それとも、ここで飲んで帰られますか?」
「本当に、忘れられますか?」
「それを望んでいらっしゃるんでしょう?」
店主の声は小さく柔らかく、安心させるようにも、責めているようにも聞こえた。
「飲んで、いや缶……ごめんなさい、瓶でお願いします」
笑って王冠を被った瓶を差し出される。
きっと、飲めはしないことを見透かされている気分がした。
SF
公開:23/11/13 21:00
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