想い出
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「今日は飲みに行かないのか?」
高揚気味な上司に頭をさげ、足早に街から遠ざかる。
「はは」
笑ってしまうほど焼きすぎただし巻き卵とビールを持ってカーテンを開く。
「うん、これだったら飲めるかも」
「よかった」
そう言って微笑む彼女の持つビールと同じ、淡い薄紅色の桜吹雪が視界を覆う。
「今年も綺麗に咲いたな」
異国の地で唯一桜が見える部屋、そう聞いてサインをしない選択肢はなかった。
自分の夢を優先し切り捨てたにも関わらず彼女の面影を捨てきれなかった。
もしかしたら待っていてくれるかもしれない。
そんな甘い幻想を打ち砕く、彼女の笑顔と光る指輪の写真。
「にっが」
彼女はああ言ったが、きっと無理して飲んでくれていたのだろう。
甘かったのは想い出と自分の心だけ。
桜色の想い出を断ち切るにはちょうどいい、少し肌寒い三月の夜。
少し結露した懐かしいラベルを指でなぞると大粒の雫がテーブルに落ちた。
高揚気味な上司に頭をさげ、足早に街から遠ざかる。
「はは」
笑ってしまうほど焼きすぎただし巻き卵とビールを持ってカーテンを開く。
「うん、これだったら飲めるかも」
「よかった」
そう言って微笑む彼女の持つビールと同じ、淡い薄紅色の桜吹雪が視界を覆う。
「今年も綺麗に咲いたな」
異国の地で唯一桜が見える部屋、そう聞いてサインをしない選択肢はなかった。
自分の夢を優先し切り捨てたにも関わらず彼女の面影を捨てきれなかった。
もしかしたら待っていてくれるかもしれない。
そんな甘い幻想を打ち砕く、彼女の笑顔と光る指輪の写真。
「にっが」
彼女はああ言ったが、きっと無理して飲んでくれていたのだろう。
甘かったのは想い出と自分の心だけ。
桜色の想い出を断ち切るにはちょうどいい、少し肌寒い三月の夜。
少し結露した懐かしいラベルを指でなぞると大粒の雫がテーブルに落ちた。
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公開:23/11/15 17:28
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