五臓六腑

とあるビアバルで、すこぶる美味いビールに出会った。
「素晴らしい。五臓六腑にしみわたるとはこの事だ！」

感動のあまり叫んだ翌日、身体中の血液がビールになった。
どうやら本当にしみわたったらしい。炭酸とアルコールの心地良い刺激が全身を巡り、上気した頬は金色に輝いた。怪我をすれば傷口が泡立ち、涙も汗も爽やかな香りを漂わせた。
内臓も体組織もビールに染まった様で、常にほろ酔い加減の日々が続いた。
呼吸と共に肺でビールを味わい、代謝によって体内でビールを醸造した。あらゆる景色がビール色に見え、あらゆる音がしゅわしゅわ弾けて消えた。ゴクゴク鳴る心臓に呼応して、脈がぷはーと満足げに拍動する。酔いしれて眠る夢の中までビールにひたっていた。

究極にご機嫌な一人飲みをしばらく楽しんだが、こんなに美味いビールを独り占めするのも勿体ない気がしてきた。
相伴してくれる客を求め、千鳥足で例のビアバルに向かった。