ビール便

親元を離れて独り暮らしを始めた俺のアパートに、実家の両親が「ビール便」を送ってきた。
ビール便は、全国津々浦々にクラフトビールの醸造所を擁するホップ運輸の宅配サービスだ。
箱を開けると、何の変哲もない瓶ビールが入っているだけなのだが、栓抜きで王冠キャップを外してグラスに注ぐと、故郷の懐かしい香りと共に、両親の声が聞こえてきた。
「ハタチ　オメデトウ！　コレ　ノンデ」
「コレ」とは、醸造された地域の香りが配合されたエールビールで、発泡に短い声を録音できる特殊製法で作られている。
送られてきたビール便は、往復便になっていて、もう一本、空の瓶が入っていた。
俺は、近所にあるホップ運輸直営のクラフトビールの醸造所に行き、自分の声を録音した地元のエールビールを空の瓶に封入してもらい実家へ送り返した。
今ごろ両親は、瓶ビールをグラスに注ぎながら、きっと聞いていることだろう。
俺の「カンパイ！」の声を。