ビール便

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9ヵ月前の自分からビール便が届いた。
バレンタインの抽選企画で、相手の記念日にメッセージ付きクラフトビールを送るという趣旨だったはずだ。
宛先が他ならぬ自分で、指定日が期限目一杯の9ヵ月後。そこまで期待も興味もなかったんだろう。実物が届くまで応募した事すら忘れていた。

どうせ飲めもしないのに。わざわざ現在地まで転送してくれたお節介に毒づきながら、高そうな瓶に貼られた白紙のラベルを睨む。
書く気もないくせにこんなもの送って来るな。叩き壊してやりたい気分で栓を抜き、お茶用のカップに中身を注ぐ。
半年ぶりくらいの、苦くて酸っぱくて懐かしい香り。ふわりと広がる泡に、ラテアートの様に下手くそな殴り書きが浮かんだ。
『大丈夫、飲んで行こう』

――上等だ。窓に映る入院着にカップを掲げる。
午後の移植手術、絶対成功させて、退院後にたらふく飲んでやる。
ベッド脇のカレンダーに『生還記念日』と書き込んだ。
その他
公開:23/11/10 19:18
クラフトビールコンテスト

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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