虹のクラフトビール

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「これください、『虹のクラフトビール』」
不思議な名前に惹かれ私はメニューを指さした。
グラスを拭いていたマスターは顔をふっとほころばせた。まるでキリンのような目。今日初めて人に優しくされた気がして、私はおんおんと犬のように泣きたくなった。
どうぞ、と差し出されたビールはどこまでも透明なブルーだった。昔水族館で見たイルカの水槽も確かこんな色だった気がする。
羊のような泡がふわっと口を包み、シトラスとハーブを合わせたような香りが喉を通り抜けた。
ふと右奥に座っている男性を見ると彼の手にしたグラスはウサギの目のように赤かった。
「あちらの方も虹のクラフトビールです」
私の視線に気付いたマスターが梟のようなトーンで言った。
「飲む人の体や心の状態によって最適な状態に変化する、それが虹のクラフトビールです」
海色の液体が体に沁み込んでいく。明日はどんな色と味になるんだろう。そう思うとワクワクした。
その他
公開:23/11/10 09:17
クラフトビール

kiri

飲食業の傍らで小説やエッセイを書いております。

いつか作家一本で食べていけるようになることが目標です。

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