記憶

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いつもは素通りする帰り道のコンビニ。
吸い込まれるように店内に入った私は、いつもと違う棚に手を伸ばす。
「どう?苦味が少なめな銘柄を選んでみたんだけど」
「うん、これだったら飲めるかも」
そう言って微笑む過去の自分に自然と苦笑いが込み上げる。
「いただきます」
まだ少し肌寒い夜にだし巻き卵の湯気が上りたつ。
返ってこない返事にすっかり慣れた私を無情にも月が照らす。
「やっぱり苦い」
一口飲んだところでテーブルに缶を置き、だし巻き卵で中和する。
無理して飲む必要はない。
愛してばかりだった、苦しかった、投げ出したかった。
でも、どうしようもなく好きで、手放せなかった。
毎日好きと嫌いを天秤にかけて、愛を物差しで測っては一喜一憂した。
今はもうその必要はない、残酷で確かな事実。
少し結露した懐かしいラベルを指でなぞると大粒の雫がテーブルに落ちた。
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公開:23/11/13 02:01

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