マジックアワー

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水平線の彼方から、白い帆にたっぷり風をはらんで彼女が現れる。
彼女は、海を滑るように滑らかに走る。
「おかえり」ぼくが手を差し出すと、「ただいま」彼女はいたずらっ子の笑みを浮かべてぼくの手を掴み、ぐいっとヨットの中へ引き寄せた。 
彼女の細い手がぼくをぎゅっと抱きしめる。
夕焼けが辺りを黄金色に染めていく。
プシュッ
デッキでお気に入りのクラフトビールの缶を開けてグラスに注ぐと、細かな泡とともに柑橘の爽やかな香りがした。
「乾杯」ぼくが言う。
「なにに乾杯?」彼女が聞く。
「きみに」
「あなたに」
「ふたりに」ぼくたちはグラスをかたむけた。クリーミィな泡から、爽やかな柑橘の香りが喉をつたう。
空は紫とピンクが混じり合う。
「またね」彼女は微笑み、海へ飛び込んだ。「泳ぐのもいいけど、船も楽しかった! また貸してね」
彼女は元の姿に戻った。美しいサファイアブルーの尾びれが海の底へ消えていく。
ファンタジー
公開:23/11/12 22:09

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