みちの旅

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家の近所に見知らぬ停留所ができていた。不思議に思っていると、おばさんの団体がドヤドヤやってきた。
「来たわ」
おばさんたちの視線の先を見ると、一本の道が川のように流れてきた。竿を持った男性が道を漕いでいる。停留所の前でスッと止まるとおばさんたちが乗り込んだ。道がグラリと揺れる。
「お客さんは乗るの?」
聞かれて思わず「乗ります」と答える。道がスイと動いた。
「どこに向かうんですか?」
「わからないのがいいんじゃない」
「帰りは?」
「決めないのがいいんじゃない?旅なんだから」
おばさんたちが答える。停留所にみちの旅とあったのを思い出す。
「仕事や家族は?」
「忘れられるからいいんじゃない」
僕らが横切った道には通勤や通学に向かう人たちが歩いてた。この道には気付いていない様子。
「旅が必要な人だけ見えるんだ。よそに行きたいと思っただろう?」
振り返る。慣れ親しんだ景色が泣きながら追ってきた。
公開:23/03/15 13:49

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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