ぼうとたび

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「ぼうを忘れずに持っていくのよ」
僕の国では成人の儀式でぼうと旅に出る。ぼうは僕が2歳の時に公園で拾ってきた。「人は皆ボウと共に成長する」は棒タクトの言葉だっけ。
子供の頃は坊やだった。思春期には暴れん坊になった。成人の旅で僕らは坊と決別し、新たなぼうに成長する。
旅先でぼうは様々に変化した。美しい展望に呆然とした。トイレが見つからなくて破裂しそうな膀胱。金を落として貧乏になり、仕事をした多忙な宿。棍棒を持った暴徒に追われ、解剖されそうに。某国では独房に入れられる寸前で逃亡。記憶は忘却の彼方で、何某と呼ばれ、見知らぬ地で暮らしていた。
ようやく自分を取り戻した僕は、成人2週目で旅を終え、懐かしい我が家に辿り着いた。涙で目の前がボウとする。
「変貌したわね。毛がボウボウよ」
「ちょっとした冒険だったよ」
旅の途中で結婚した妻と、生まれた赤ん坊を母に紹介した。
「人生の旅の相棒と希望だ」

 
公開:23/03/15 09:59

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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