路銀取り

ちりんと根付の鈴が玄関先に響き、今年もこの時期かと思う。
お遍路財布。三月十二日の財布の日に合わせ、町中の財布が徒党を組んで家々を回り、住人に路銀をせがむ。言うなれば財布のハロウィンだ。
何かと物入りな年度末、ドアの覗き穴から恐る恐る窺えば、色形材質も様々の財布がひいふうみいの……百近い集団行脚。もはや百鬼夜行もかくやの勢いだ。
ものが財布だけに『トリックオアトリート！』などとは騒がないが、催促気味の鈴の音が地味にうるさい上、他人様の財布に向かって身銭を切るのがどうにも腹立たしい。
これも浄財の一種、神社の賽銭のつもりで納めればいいのだが、集まった財布全部にとなればそこそこの出費。渡した金は弁財天様の懐に消え、回収もままならない。

パクパクカチカチ開閉するガマ口と札入れに向かい、渋々放る五円玉。ちりんちりんと値踏みする鈴音。
おのれ財布ども。貴様らが回ってくるせいで、私は首が回らんのだ。