万化境

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旅先の民芸店に山積みになっていた。
「万華鏡か、懐かしいな」
千代紙の筒に覗き穴の付いた、昔ながらの万華鏡。回す度に変わる模様が面白くて、小さい頃は飽きずに半日でも覗いたものだ。

「万の境に化けると書いて、万化境(まんげきょう)と申します」
店主らしき白髪の老爺が一本差し出す。
童心に返って覗き込むと、穴の向こうに広がったのは、雲を浮かべた青空だった。
「ご用心を。一期一会の旅でございます」
どんな仕掛けなのか、筒の中で次々と景色が化ける。見渡す限りの花畑、のどかな田舎町、摩天楼の夜景に流氷の海。どれも本物と見まごう臨場感だ。
世界旅行気分で百ヶ所近く巡った頃、見覚えのある景色が視界を過ぎた。
半ば風化し、今にも崩れそうに古びた我が家。

カレイドスコープ――万華鏡の別名がふと浮かんだ。不吉な予感にかられ、万化境から目を離して頭を探る。
眼前に姿見があった。骨張った指に白髪が数本絡んだ。
ファンタジー
公開:23/03/12 18:26
プチコン

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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