蜃気登楼

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海市ヶ浦は蜃気楼の建つ浜だった。
大潮の過ぎた濃霧の夕暮れ、海風に乗って蜃(おおはまぐり)の吐息が集い、海上楼閣を形成する。
数百年、あるいは数千年に一度の登楼日、鏡の様なベタ凪を縫って、迎えの亀甲船が浜へ着く。弾けたが最後、末路は海の藻屑か魚の餌か。還らずの道行きと知りながら、幻の不夜城が紡ぐ泡沫の逢瀬を求め、男達は黄昏の海へ漕ぎ出していく。

「兄さん、その齢で妓楼通いたぁ、あんたも数寄者だねぇ」
「ずいぶん待たせたきりの、馴染みの妓がいるんでね」
櫂ひれを漕ぐ船頭の冷やかしを笑って躱し、覚束ない足で船縁を跨ぐ。形見の釣り針もとうに錆び朽ちてしまったろうけれど、彼の人の待つ、あの海の宮へもう一度。その為だけに悠久の時を旅してきたのだから。

「今、太郎が参ります、乙姫」
幾星霜を隔てても、必ず帰ると約束した。
色褪せた手箱の緒を腰骨に締めた。
ファンタジー
公開:23/03/10 14:57
更新:23/03/10 15:02
プチコン 浦島太郎と蜃気楼

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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