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我が町内会にはとても風変わりなオペラ歌手が住んでいる。古くからの住人ではあるのだが、何しろ人付き合いが大の苦手。穏やかな昼下がり、彼が暮らす高台の一軒家からは伸びのあるしなやかな歌声が風に乗って聞こえてくることもある。漏れ聞こえる男性ソプラノらしい力強い高音は文句のつけようがないほど研ぎ澄まされている。さすがクラシック界隈では名の知られた歌手だ。だが、町内の誰一人として彼のコンサートに足を運んだ者はいない。音楽業界においてさえ彼の舞台は幻のチケットと呼ばれている。なぜなのか。
「コンサートには基本行かないって決めているんだ。たとえ僕自身のであってもね」
十数年前に彼が音楽雑誌に語った唯一のインタビュー記事の切り抜きが残っている。そうなのだ。彼は気分次第で自分の公演すらもすっぽかしてしまうとんでもない歌手なのだ。表向きの理由は人に会いたくないから。ただ、本当の理由は彼本人にしかわからない。
「コンサートには基本行かないって決めているんだ。たとえ僕自身のであってもね」
十数年前に彼が音楽雑誌に語った唯一のインタビュー記事の切り抜きが残っている。そうなのだ。彼は気分次第で自分の公演すらもすっぽかしてしまうとんでもない歌手なのだ。表向きの理由は人に会いたくないから。ただ、本当の理由は彼本人にしかわからない。
ミステリー・推理
公開:23/03/07 16:02
更新:23/03/07 16:04
更新:23/03/07 16:04
謎
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ミステリー
2022年から米国在住。
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