枯れ木に恋を咲かせましょう

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その鉢が置かれていたのは、花屋の隅のワゴンでした。
『もう一花咲かせませんか?』
そんな売り文句が挿された植木鉢。それは花というより単なる土、もっと言えば一盛りの灰に見えました。用土の代わりに灰が詰まった鉢。新種の肥料でしょうか?
「花さかじいさんの灰です」
悪戯っぽく笑う店員さんに、言い得て妙だと僕も笑い、灰を買って花屋を出ました。

寄る年波に勝てず、近頃は庭の手入れも滞りがちでした。杖をつきつき帰る町は、ホワイトデーの売り出し中らしく、通りにも恋人連れが目立ちます。
今更この齢でといささか苦いものが過ぎりつつ、ショウウィンドウを覗き込んだ拍子、うっかり杖につまづき、鉢を落としてしまいました。


遅ればせの春一番に乗った灰は、並木道を桜色に染め、また一息に散って、大量の桜雨を降らせました。
掌に落ちた小さなハートを握り、僕は花屋へ取って返します。
連れ合いに贈る花束を思い描きながら。
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公開:23/03/06 19:50
月の音色 月の文学館 テーマ:恋

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.10執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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