糸し糸しと言う心
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「ねえ、コイって書ける?」
図書室の机に差し向かいの彼女が、ノートに鉛筆を走らせながら言った。
僕は添削用の赤ペンで、余白に『戀』と書いた。
「戀という字を分析すれば、糸し糸しと言う心。有名な都都逸(どどいつ)だよね」
恋の旧字体の覚え方。昨日の授業で聞いたネタだけど、彼女のクラスはついさっきの話だろう。
あの人は使い回しが多いから。正直に言えば頬っぺたをふくらまして怒るに違いない。僕は黙ってノートの角をつつき、こんがらがった戀の字をほどいて糸にした。
「指輪みたい。昔よくあやとりしたね」
一文字分の赤ペン糸を小指に結ぶと、懐かしそうに彼女が笑った。
昔は薬指だったな。片側がノートに繋がった糸を弾く。――テン、と三味線みたいな音がした。
自習終わりのチャイムが鳴り、赤ペン糸が切れた。
「さ、部活部活」
五線ノートを閉じた彼女が廊下へ駆け出していく。
音楽室から先生のピアノが聞こえてきた。
図書室の机に差し向かいの彼女が、ノートに鉛筆を走らせながら言った。
僕は添削用の赤ペンで、余白に『戀』と書いた。
「戀という字を分析すれば、糸し糸しと言う心。有名な都都逸(どどいつ)だよね」
恋の旧字体の覚え方。昨日の授業で聞いたネタだけど、彼女のクラスはついさっきの話だろう。
あの人は使い回しが多いから。正直に言えば頬っぺたをふくらまして怒るに違いない。僕は黙ってノートの角をつつき、こんがらがった戀の字をほどいて糸にした。
「指輪みたい。昔よくあやとりしたね」
一文字分の赤ペン糸を小指に結ぶと、懐かしそうに彼女が笑った。
昔は薬指だったな。片側がノートに繋がった糸を弾く。――テン、と三味線みたいな音がした。
自習終わりのチャイムが鳴り、赤ペン糸が切れた。
「さ、部活部活」
五線ノートを閉じた彼女が廊下へ駆け出していく。
音楽室から先生のピアノが聞こえてきた。
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公開:23/03/06 19:49
月の音色
月の文学館
テーマ:恋
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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