旅館カンタビレ

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旅館カンタビレ名物の一つ、音泉。音の泉と書くこの温泉に浸かって、小さな風呂オケを浮かべると、オケから旅の記憶の音が聞こえてくる。私のオケが奏でたのは、小さい頃、両親と旅した時の音だった。
 コポ… コポポ…
水族館の音。父の青いシャツに魚の影が映ると、まるで父が水族館を着ているようだった。
 カチ、ボッ トントン…
旅行から帰った翌朝、父がいない家でも、母は早起きして二人分の朝ご飯を作った。
母の料理を思い出してお腹の虫も歌い出す頃には、宴会場から女将のピアノが聞こえてきた。もう一つの名物、オケ盛りづくしの用意ができたみたい。妻と娘のオケ盛りは、今宵どんな名演をするだろう。
「旅は歌うように」
両親の口癖だった。今度は私が娘にこの言葉を贈る番。
あの日、父はオケ盛りの演奏を聴きながら、楽しそうに旅の思い出を歌った。不倫がバレて離婚に至った。この旅はどうか、〝アカン旅〟レになりませんように。
その他
公開:23/03/08 03:31
更新:23/03/22 04:38

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