切符切り絵

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「またたび駅へようこそ!」
歯切れの良い掛け声と、パチンと響く爪の音。渡世線またたび駅には、脚絆に三度笠で切符を切る名物駅長がいる。

駅名で察しがつく通り、齢三十年、三つ又尻尾の化け猫だが、名物なのは姿形ではない。白手袋ならぬ白靴下の猫肢が、パチンパチンと爪で切り取る切符窓。これが見事な切り絵になっている。

肉球一つの小さな窓に、ある時は満開の桜吹雪、ある時は紅葉の錦織りといった具合に、季節の風物を巧みに切る。客の行き先や旅の思い出をぴんと伸ばしたヒゲ先に感じ取り、即興で旅行絵巻を仕立てたりもする。
改札三歩の三度笠。その早技と美しさに魅了され、ふたたびみたびと駅を訪れる者が後を絶たない。希望すれば切符は持ち帰りも可能で、切り窓を透かし見ながら駅舎を出る客の顔は、まさにまたたびに酔った猫のごとし。

ただし駅の営業は春夏秋の三季まで。冬はこたつで丸くなるのが、切っても切れないお約束だ。
ファンタジー
公開:23/03/07 19:36
プチコン

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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