新しい命

N医師が言うには、お腹の中に歯やら毛やらがあるという。
私のお腹の中で、小さな新しい命が育ち始めていたなんて。信じられない。
ずっと子どもが欲しかったし、その気持ちを抑えられなくなりそうな時もあった。でも、年齢とともに諦めにかわっていた頃だった。そもそも相手だっていないのだし。
「犬をねぇ。」
リクが死んでからは、お腹が痛む日が増えた。町でリクに似た黒柴犬を見ると思わず目で追ってしまう。お腹の痛みがなかなか治まらないので病院に行くと、卵巣に腫瘍が見つかった。受精卵がひとりでに分裂をしてできる［皮様嚢腫］というものらしい。
Ｎ医師も犬は初めてのようだ。しかも、腫瘍の中の命は既に死んでいるのが普通だから、生きてる犬を見たのは初めてだと。リクの写真を見せると医師は微笑んだ。
「やってみますか。」
手術で取り出せば、普通の子犬として育てられるというので、私は医師と一緒に手術日を決めることにした。