旅を避ける男

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障りあり、控えよ、利なし。
初めて引いたときからだ。宮田のおみくじの「旅行」の項には、運勢に関係なく必ずよくないことが記されていた。
少年期は旅と名のつく学校行事はすべて欠席し、旅と遜色ないものもパスした。社会に出てからも、社員旅行を理由に退職した会社は少なくない。
徹頭徹尾、徹底的に旅を避けて生きてきた。それなのに。
『人生もまた旅です。僕はただ、生きているだけなんですよ』
番組のBGMとともに、テレビの中の誰かは晴れやかな顔でそう言った。

宮田は欄干を跨ぎ、遥か下を流れる川を見下ろす。通報されたのか警官が駆けつけ、様々に言葉をかけてくる。
「僕は旅をするわけにはいかないんです」
宮田は答えると、どうせ最期なのだ、と旅との因縁について警官に話した。
話を聞き届けた警官は言った。
「ですがそこから足を離せば、この世から旅立つことになるのでは?」
欄干にかけた足を、宮田は静かに橋へ戻した。
その他
公開:23/03/04 14:27
更新:23/03/05 16:04

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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