蟻が奏でる象を聴く

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 象は皺だらけだ。皺が象だといっても過言ではないくらいに。
 象は生涯移動し続け、歩行という同じ動作の反復が体に皺を刻み込む。象という重量を運搬する皺。皺こそが象であり、同時に皺は象の移動の痕跡なのである。
 今、最期を迎える一頭の象が歩行を止めて横たわる。そこへ一匹の蟻が迷い込んでくる。
 蟻が皺を辿っていく。
 蟻は自らが辿っている入り組んだ小径が象の皺であり、つまりは象の旅の記録であり、すなわち象そのものであるということを知らない。
 だが、その蟻の歩行がもたらす微かな振動は複雑な皺に反響して、微かに残る象の意識に、懐かしい歌を響かせているのではないだろうか。
 蟻が奏でる象を聴くこと。
 それが、わたしの旅の理由である。
その他
公開:23/03/03 22:40

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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