あの峠を越えたら

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峠の向こうに極楽がある。

その噂を流したのは熊だった。噂を信じた人々は挙って峠を越えようとし、熊のエサとなった。誰も戻ってこない。それは確かに極楽があるのだと、さらに噂が広まった。そして、ますます峠に向かう者が増えた。

熊は困った。食べきれない。
一人でも逃せば、極楽の無いことがばれる。
どうする?

案1 仲間を呼び寄せる
案2 極楽を作る

仲間を呼び寄せた場合、エサが少なくなった時に争いが起きる。それは避けたい。ならば案2か。そもそも、極楽とはなんぞや?

悩んだ熊は、通りかかった僧に教えを乞うた。すると僧は出家を勧めた。熊は出家し、峠に建てた寺で修業をした。肉や魚を絶ち、豆畑を作った。功徳を積もうと、峠を通る人間たちに蜂蜜を与え、豆腐を振舞った。何時しか、皆、峠の寺を目指すようになった。

峠の向こうに極楽がある。
噂を口にする者はもういない。

実は本当に極楽があったのだが。
その他
公開:23/03/05 20:59
プチコン「旅」

いづみ( 東京 )

文章を書くのが大好きです。

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