旅缶観光(りょかんかんこう)
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現実に疲れ、ここじゃないどこかへ行きたくなった時、僕は旅缶(りょかん)のフタを開ける。
旅缶は逃避行用のシェルター缶だ。見たくないものを封じて自由を得る事も、缶をくぐり抜けて別世界を旅する事も、自分が缶詰めになって閉じ籠る事もできる。ラベルで中身は選べるけど、ここ以外ならどこでもいいから、僕はいつも覆面ラベルのシークレット缶だ。
ドーナツの穴。股覗きの向こう。ビー玉越しの逆さま。チケット缶切りで開けたフタの奥には、毎回変てこな光景が広がる。目的地も決めずに出発しても、旅缶も道案内に迷うんだろう。数分眺めてフタを閉じ、あきらめの溜息をつくのがお決まりだった。
その日、フタの奥に映ったのは合わせ鏡だった。
きょろきょろさまよう視線と、右往左往する無数の足跡。
自分探しの旅で迷子になっていた僕を、今日やっと見付けた。
「おかえり、僕」
フタの上で居心地悪そうに縮こまる、ゆがんだ顔に言った。
旅缶は逃避行用のシェルター缶だ。見たくないものを封じて自由を得る事も、缶をくぐり抜けて別世界を旅する事も、自分が缶詰めになって閉じ籠る事もできる。ラベルで中身は選べるけど、ここ以外ならどこでもいいから、僕はいつも覆面ラベルのシークレット缶だ。
ドーナツの穴。股覗きの向こう。ビー玉越しの逆さま。チケット缶切りで開けたフタの奥には、毎回変てこな光景が広がる。目的地も決めずに出発しても、旅缶も道案内に迷うんだろう。数分眺めてフタを閉じ、あきらめの溜息をつくのがお決まりだった。
その日、フタの奥に映ったのは合わせ鏡だった。
きょろきょろさまよう視線と、右往左往する無数の足跡。
自分探しの旅で迷子になっていた僕を、今日やっと見付けた。
「おかえり、僕」
フタの上で居心地悪そうに縮こまる、ゆがんだ顔に言った。
その他
公開:23/03/05 09:50
更新:23/03/05 17:39
更新:23/03/05 17:39
プチコン
旅
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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