旅をさがす

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旅が消えた。拐われたらしい。社内PCには、「正午までに箱根へ来い」と脅迫めいたメモが残されていた。
旅行代理店にとっては死活問題だと、会社中の人が朝から対応に追われた。
OJTの先輩は、「旅を介さない旅行なんてただの移動」と嘆いたが、僕にはよくわからなかった。
「新人、箱根行ってこい」
先輩に言われ、僕は会社を出た。
指示は逐一、会社支給のスマホに転送されてくる。初めてのロマンスカーに乗り、写真でしか見たことのない駅弁を食べた。
車窓の景色はもう初夏だ。電車にはいつも乗っているのに、気がつかなかった。
箱根に着くとまた指示が入る。
大湧谷、黒たまご、芦ノ湖。
どれも、何度もパンフレットで見たものだ。けれど、初めて五感を通して触れたすべては、まるで別物みたいに僕の身体を満たしていった。

『それで、旅は!?』
先輩が、電話越しに訊ねる。
「見つけました」
考えるより早く、僕はそう答えていた。
ファンタジー
公開:23/03/01 20:14
更新:23/03/02 18:44

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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