旅行代理人

僕は、旅行代理人・旅屋を始めた。早速電話だ。
「はい、旅屋です。葛西彩香さんのお母様ですね。ご依頼された場所に代理で旅行させていただき、動画やレポート、感想を送らせていただきます」
打ち合わせは病院だった。「一度も海外に行ったことがないのよ」と痩せた顔を綻ばせたのは、幼なじみの彩香だった。
僕は彼女の夢だったヨーロッパ周遊の旅に出発した。
ドイツのバスで一緒になった日本人女性は事情を話すと「彩香さんは、ウインナー好きですか」などと、カメラに語りかけてくれた。
フランスに入った時、彼女が亡くなったと連絡が入った。
お母さんからのお礼と僕へのメッセージ。
僕は旅行を続けゴールに着いた。彼女が見たかったというエッフェル塔でメッセージを開いた。
『まるで本当に旅行しているみたいで楽しかった。私もあなたの夢を一つでも叶えてあげられたらな』
僕の夢は叶ったよ。僕は、予定通り、帰国と同時に旅屋をやめた。