本当の家に帰る旅

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 私があの家に引き取られたその日、悪人によって私は誘拐されてしまった。「可愛いから」という身勝手な理由で。
 私を迎えてくれた家族の元に帰りたい。しくしくと泣く。
 連れてこられた家で、悪人は私のことをこき使った。真っ白な肌は汚れ、痩せ細っていくのがわかる。
 ある日、窓の外に大きな鳥が来た。
「お嬢さん、本当の家に帰る旅に出てみるかい」
 本当の家に帰る旅! 私の胸は高鳴った。
「連れてって、お願い!」
 鳥は私の体を啄むと、大空へと飛び立った。
 家の場所なんてわからない。でも両親やお姉ちゃんともう一度会いたい。
 外はすっかり暖かくなっていて、春の匂いがした。
 その時突然、びゅう、と大きく風が吹き、私の体は空中に投げ出された。
 ーーぽちゃん。
 私は水たまりに落ちてしまった。
 ぬっ、と手が伸びてきて私を掴む。子供の手だ。
「わあ、可愛い消しゴム!」
 ああ、私の旅は前途多難だ。
その他
公開:23/03/02 19:09
更新:23/03/02 20:20

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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