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助走が趣味の男と暮らしている。友達というわけではない。そいつは暇さえあれば、自らが編集した「助走場面だけを切り取った動画」をスマホで見て、嘆息をしたり頭を振ったり、ナイスッっと小さくガッツポーズをしたりする。
陸上競技には助走があるものが多いが徒競走には助走がないんだぜ、とそいつはしたり顔で解説する。サッカーのPKなんかの助走の良さが分かってくれば、ようやくスタートラインってところかな。
助走はどこまでが助走なのか、と訊ねるとそいつは躊躇なく、踏み切りまでだ。と断言した。じゃ、明日も早いから、と梅酒を飲み干して掛け布団を額までかぶったそいつは、おそらく最近お気に入りの、待ち合わせ場所に相手が来ているのをしばらく眺めていた人が相手に向って駆けだす直前までを切り取った動画を、リピートしているに違いない。それは偶然撮れた動画だが、助走史に新たな一頁を書き加えるものなのだそうだ。
おやすみ。
陸上競技には助走があるものが多いが徒競走には助走がないんだぜ、とそいつはしたり顔で解説する。サッカーのPKなんかの助走の良さが分かってくれば、ようやくスタートラインってところかな。
助走はどこまでが助走なのか、と訊ねるとそいつは躊躇なく、踏み切りまでだ。と断言した。じゃ、明日も早いから、と梅酒を飲み干して掛け布団を額までかぶったそいつは、おそらく最近お気に入りの、待ち合わせ場所に相手が来ているのをしばらく眺めていた人が相手に向って駆けだす直前までを切り取った動画を、リピートしているに違いない。それは偶然撮れた動画だが、助走史に新たな一頁を書き加えるものなのだそうだ。
おやすみ。
その他
公開:23/02/22 21:26
シリーズ「の男」
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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