猫を被せる

彼女が帰ってきた。今日もえらくお疲れの様子…大丈夫？
「大丈夫。平気だよ」
そう言って笑うけどとても心配だ…帰宅早々、着替えもせずにパソコンを起動させて仕事の続きを始めている。せめてご飯くらい食べなよ。
「先に食べてていいよ。私は後でいいから」
力なく笑う彼女。何も言えない事が物凄く歯がゆい。
ここで邪魔しようものなら怒られてしまう。僕は彼女に頭が上がらないんだ…
だから僕は猫を脱ぐと、そっと彼女に被せた。
「やっぱりご飯食べよう…」
彼女が食事を始めた。
「お腹いっぱいになったし、今日はもう寝よ…」
欠伸をかみ殺し、軽くシャワーを浴びると布団に倒れ込む彼女。今は猫みたく、しっかり眠るといい。
寝息を立てる彼女を見て、僕はパソコンの前に座った。さて…この書類仕上げてやりますか。
彼女の飼い猫である僕は今、猫を脱いでいる。彼女の為に一肌脱いでいる。
今だけは彼女を猫のように甘えさせてやろう。