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先生と二人で歩いていた。駅前から閑静な住宅街を通り公園を抜けた。いつものように先生に半歩遅れて歩調を合わせる。先生はときおり独り言のように言葉を発する。「静かな公園だ」公園には他に人はいない。派手な色彩の遊具が立っている。道は公園から小さな丘に続いていた。淡々と歩く。道端に椿の花が咲いていた。「椿が綺麗ですね」私が声をかけると、先生は「椿は綺麗か、綺麗は椿か」とまた独り言にように呟いた。小高い丘の頂上に着いた。いい見晴らしで歩いてきた街が見える。前方に海が見えた。「海が広い」先生は言うが、海は木々の間に遠く見えて広いとは思わなかった。返事を考えていると先生は言う。「自分の外を見るのは内を見ること。内を見るのは外を見るのこと」私は謎をかけられた気になり海を見たまま黙っていた。丘を下る帰途は憶えていない。先生と散歩した最後の日だった。それから先生と会うことはなくあの街に行くこともなかった。
その他
公開:23/02/21 16:51
2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。
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