焼きたてですよ

川辺から一斉に蛍が飛び立ち、水面を明るく照らす。その様子は川が燃えているように見えた。
蛍の光は幻想的、なんて言われているがこの光は苛烈で、まるで戦火のよう。
「恋と戦争は手段を選ばない…今、この川辺では蛍の恋愛戦争が行われているのさ。これに勝たなければ子孫は残せないからね。アピールに命を燃やしているのさ」
そう教えてくれた祖母の顔は蛍の光に照らされ魔女のように見えた。普段は優しい祖母が恐ろしく見えた。
「今年の焼き立てはこれまた見事なものだねぇ…」
川が燃えているように見える事から、これを”焼き立て”と呼んでいるらしい。
年々数を減らしているという蛍が、この田舎ではその輝きを増やしているらしい。ここは蛍の合コン会場というわけか。
この光を見て、私も震える。私は自分だけが光っていると思っていた。そうじゃない。皆光っていたんだ。
もっと自分を磨こう。焼きたての光景を目に焼き付け、心に決めた。