牧場観察人

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「何事も極端は良くない。それが人生の教訓だな」
牧場観察人である祖父は、広大な牧場を眺めながら孫に述懐した。
「この仕事が始まったのは、極端な生命保護活動家が増えてからだ。彼らは動物だけでなく植物も生きている。人が生きるために地球上の仲間たちの命を絶つのはおかしいと主張したんだ。米や麦もダメだ。すると、口にできるのは、生を全うした死肉だけ」
「つまり、おじいさんは、動物たちが死ぬのを待っていると」
「そういうことだ。死んだ動物を腐る前に運び出す」
「それが命を大切にすることなんだね」
「まあ、奇麗ごとだがな」
祖父は孫の頭を撫でた。空を飛ぶトンボを燕がさらって行く。牛がトボトボとした足取りで近づいてきた。体がふらついている。
「彼もそろそろ寿命だな。なにせ彼らの寿命は1年しかない。そういう家畜を開発しないと、人類は生きていけない」
そういって、祖父はトラックのエンジンをかけ始めた。
SF
公開:23/02/16 09:13

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