焼きたてですよ

子供の頃、僕はよく父におんぶをせがんだ。
煙草を咥えた父が僕を背負い走ってくれる。煙をぽっぽっぽっと吐き出す父がまるで蒸気機関車に見えて無邪気に笑っていた。
昔は健康被害とか考えなかったからね。良くも悪くも印象に残っている思い出だ。
そんな父ももう７０を超え、煙草も控えている。
もう昔みたいには走れないか…と、思ったがそうでもない。
僕の息子にせがまれ、おんぶする父。
その前に一服…と電子タバコを口にする。
その後、「爺ちゃんは新幹線だぞ！」なんて言っては息子を背に元気に公園を走り回っている。
歳は取ったが、父はいつまでたっても若々しい。
その秘訣はやはり煙草にあるようだ。
父に取って煙草はスイッチのようなもの。心に火を点ける起爆剤だと話してくれた。
だからこそ、ここぞという時にしか吸わない。
「起爆しすぎると体を壊すからな」と、僕の喫煙をやんわりと窘めた。
煙草は嗜むものだけに、とね。