感動増進剤

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おれは最近感動が薄れてきた。だから趣味でやっている、短編小説の出来もますます悪くなってきた気がする。
そこで感動増進剤という物を呑んだ。これを呑むと些細なことにも感動するようになるのである。
効果は覿面に現れた。朝おれが道を歩いていると、咲いている草花に感動して見入ってしまった。登校している学生たちを見ても、健気に学ぶ姿勢、友情を育む振る舞いに感動した。会社に行こうとする人たちの、滅私奉公の姿勢に感動した。
妻の作る弁当の美味しさに感動した。共に働いてくれる職場の人たちの協調性にも感動した。家に帰っても涙が止まらなくて、感動したことをそのまま小説にした。
翌朝起きて昨夜おれの書いた作品を読んで愕然とした。小学生並みの陳腐な文章じゃないか。いや今時小学生でも、もっとマシな文を書くか。
おれは金輪際、感動増進剤を呑まないことにした。文章を書くには、擦れた感覚の方が大事なようだ。
その他
公開:23/02/13 22:43

ぴろわんこ

少し変わった、ブラックな話が好きです。

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