恋

私は故意にあることをしている。
それは気になる男性を見かけたらさりげなく物を落とすのだ。
すると相手は「これ、落ちましたよ」と私に声を掛ける。
その時、私は満面の笑顔で「まあ、ありがとうございます」と相手の目をじぃーと数秒間、見つめ、感謝の言葉を伝える。これで相手には「謙虚な美人」と印象を植え付けることが出来る。だが、これだけでは足りない。さらに相手の耳元で「今度、お礼をしたいのでどこかでお会いませんか。勿論、二人っきりで。あっ、すみません。初対面なのに。もしかして迷惑でした（上目遣い）。あの～、連絡先、交換しませんか」と恋の主導権をこっちが握るのだ。ここまでやって恋に落ちない男はいない。我ながら完璧な作戦だ。

ある日、私はいつもの様にハンカチを落とした。
しかし、その日は風が強く、すぐに舞い上げられどこかへ飛んで行ってしまった。
翌日、あのハンカチはなぜか石油王の手元に渡っていた。