恋のオークション

愛は金で買える。
「お待たせしました」
声をかけると、テーブルに突っ伏していた男が顔を上げた。その顔を見て、俺は思わず息を呑んだ。男は三十代前半くらいだろうか。整った顔立ちをしているものの、どこか陰鬱な雰囲気が漂っている。しかし何より俺の目を引いたのは、男の顔に浮かんでいる表情だった。まるでこの世の全てに絶望しているかのような――いや、実際にそうなのだろう。
男は虚ろな目で俺を見つめたあと、「……君か」と言った。そして力なく笑う。
「今回の目玉商品ですが、絶世の美女が手に入りました。写真はこちらになります」
俺はそう言って、タブレット端末を差し出した。画面に映った画像を見た瞬間、客の男の目に光が戻る。
「これは……」
男は感嘆の声をあげた。そこに映し出されていたのは、この世に存在しているのかと疑うほどの長い黒髪をした美女だった。恋のオークションに参加するのは、選ばれた成金達だけだ。