キス奇襲

僕は慌てて先輩の肩を押して引き離す。しかし彼女は僕の手を掴んでくるりと回転させ、逆に僕が押し倒されるような形になってしまった。
「えへへ～」
そう言って、先輩はまたキスしてくる。
「ちょっと、先輩！ やめてくださいよ！」
「いいじゃない～、減るもんじゃないしぃ～」
僕は努めて冷静さを保ちながら口を開く。
「もうすぐ授業が始まりますからね？ そろそろ教室に戻った方がいいんじゃないでしょうか？」
「うぅ～……」
先輩は渋々といった様子で立ち上がると部室から出て行った。……嵐のような人だった。僕はぐったりとした気分になりながらも机の上に置かれたままになっている小説を手に取る。
「……ん？」
そしてふと気がついた。本の間に一枚の紙切れのようなものが挟まっていることに……。見覚えのあるデザイン。間違いない。先輩の携帯電話番号が書かれたメモ用紙だ。先ほどキスしてきたときにこっそり忍ばせていたのだろう。