焼きたてですよ

初恋の相手は叔母だった。
幼い僕は母に甘えたいのにそれを産まれたばかりの妹に取られ、いじけていたんだと思う。
叔母の家に遊びに行っては、よくカヌレを焼いてもらった。
クッキーやパウンドケーキも好きだったけど、カヌレを焼く叔母の横顔が好きで「カヌレを焼いて」とよくせがんでいた。
硬派を気取っている僕だけど、心の真ん中は柔らかく、いつだって甘さを求めていた。もしかしたらカヌレに自分を重ねていたのかもしれない。
だから正直な話、僕は叔母の焼いたカヌレの味を憶えていない。焼きたてのカヌレをくれる叔母の笑顔ならしっかり憶えているのにね。
あと作り方もしっかり憶えている。今だって可愛い姪っ子の為にカヌレを焼いている。
産まれたばかりの弟にママを取られた！なんていじけては僕の家に遊びにくる幼い姪っ子。
彼女もまた、クッキーやホットケーキよりもカヌレが好きなようだ。
熱い視線で僕にせがんでくるのだから。