峠の霧

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真冬の夜、旧街道を車で走っていた。高速道路を使わずカーナビが推奨した最短ルートを選択したのだ。
道は上り坂にさしかかったあたりから走行する車がなくなり、街灯も少なくなって周辺は真っ暗な山林になった。
すると、峠付近に通りかかったあたりから急に霧が立ち込めて、あっという間に濃霧で真っ白になってしまい、視界が失われた。
いくつものカーブや、ガードレールのない峠道の走行に注意を払いながら運転していたが、ちょうどいい空き地があったので休憩することにした。
車の窓を少し開けると、空気中を漂う霧の臭いに違和感を覚えたが、休憩を終えて運転を再開した。
峠を越えて下り坂になると、霧も晴れて見通しの良い道となったが、すぐに身体が老化していることに気づいた。
調べたところ、旧街道に峠は実在せず、都市伝説として、峠が突如現れ、発生した霧は浦島太郎が龍宮城から持ち帰った玉手箱から出た煙と同じ成分ということだった。
ホラー
公開:23/02/11 07:12
真冬 旧街道 高速道路 上り坂 走行 運転 下り坂

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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